10時45分から13時05分まで、その間2時間20分。
10時45分から16時20分まで、その間5時間35分。
利尻島の鴛泊港を出た船が礼文島の香深港に着く時間が10時45分だ。
その日のうちに稚内港に帰り着こうとすれば
礼文島の香深港を第3便が出航するのが13時05分だ。
最終便なら香深港発が16時20分だ。
その差は3時間15分。
3時間余がどれほどの意味を持つかといえば、たいした事じゃない。
稚内についてからの行動範囲が広がるか否か、
その日の内に、当面の目標である知床半島にどれほどに近づけるかを左右する、
ただそれだけの事なのだ。
時間的に切迫しているわけではない。
そんなに急いでどこへ行く? そんなに急いで何をする?
急がなくってもいい。 分かっちゃいる。
しかし、一人旅を続けてきて、一刻も早く次の目的地へ、という
さして意味もない強迫観念に取り付かれてしまっている私だ。
歪んだ脳の命令系統は、
2時間20分で、礼文島内の3基の灯台を訪問せよ、と指示を出している。
利尻島と同様に、当初の計画に礼文島に渡る予定はなかった。
事前の予備知識はゼロ。 灯台表から訪問灯台3基を選んだ。
1基は島の最北端だ。
1基は島の最南端だ。
最南端近いもう1基は、200mの高度差を稼ぐのに、1時間のウォーキングを強いられる。
最北端の灯台は、最悪の場合割愛しよう。 南端の2基を目指せ。
そのうちで、礼文島の灯台で1基だけを選ぶなら元地灯台だ。
往復1時間のウォーキングは苦にならないが、
気温は4度前後。 風は10m前後。 霧雨は頬を打ち、吹きつける風に耳は痛い。
慰めとなるはずの、高山植物の開花はまだ先だ。
霧に包まれて視界は100m程度。 当然、周りには誰もいない。
道は平坦だが、歩き続けて30分。 霧の中からヌゥ〜ッと灯台が姿を現した。
黒地に白横帯の灯塔は不気味だ。
見慣れれば精悍で、頼もしい灯台に変わったのは、根が灯台ファンだからだろう。
海岸線の集落 ・ 知床まで戻って50分消費。 残り1時間30分。
元地灯台の山を降りるとき、奮部灯台は目に入る。 しかし登り口が分かり難い。
がむしゃらに草むらを掻き分け、往復に30分。 残り50分。
この時点で観念した。 もう駄目だ。 最終便に乗ろう。
でも、行けるだけ行ってみよう。
飛ばした。 (私が 「飛ばした」 と書くときは相当に無謀な速度だ)
崖の上にある金田ノ岬灯台は遠くから目に入った。
が、登り口が見つからない。 運良く青年がいたので聞いた。
「少しバックしたら獣道がありますから」
「獣道」 はあった。 北海道では人の踏み跡も獣道というのだろうか。
そんな事はどうでもいい。
灯塔を撫でて、敬礼をする、私流の儀式は省けないから、
その分だけ、写真の枚数が減った。
そそくさと獣道を駆け下りた。 残り時間は25分を切っている。
北海道は車が少ない。 利尻島はもっと少ない。 礼文島は更に少ない。
それをいいことに、飛ばしに飛ばした。
車を飛ばしている私を実況レポーターが見たら、
「鬼のような、夜叉のような顔つきで、無謀な男がいま‥‥」 などと表現しただろうか。
フェリーターミナル到着が出航5分前。
船便の便名も書いていない不備の書類を提出。 間に合った。
無理な運転をして得た3時間という時間は、
宗谷岬灯台、浜鬼志別灯台、北見神威灯台、音稲府灯台を訪問させ、
興部(おこっぺ)の道の駅で車中泊するまでに旅程を稼いでくれたが、
こんな旅は、褒められた物じゃない。
ゆっくりと対話したかった 金田ノ岬灯台